『群系』 (文芸誌)ホームページ 









 岩谷征捷氏批評 30号


                       (「文学街」誌305号 2013年3月より部分転載)



 (前略)

 評論・研究の分野も、今回はとても面白く愉しく読むことができました。『群系』(30号、東京都)は、「近代女性作家」を特集しています。中では野口存彌さん「佐多稲子・その生きるという経験」をおもしろく読みました。この分りやすさは、一種の一流の〈佐多稲子入門〉にもなりうる、ぜひ若い人に読んでもらいたいとも思ったことでした。それは佐多稲子の前半生、特に戦前の作品の頂点として「くれない」(昭和13年)を位置づけ、「過酷な環境のなかで政治活動を貫いたことにより確立させた自己が、そのまま作家的主体を形成させるという結果をもたらすに至る」までを、物語ふうに叙述しているからです。むずかしい論理よりも、「女性として経験しなければならなかった苦しみや悲しみを表現した作品が、女性全体の苦しみや悲しみを解決することに寄与するものでありたい」と願うに至る佐多の人生をその感情生活を跡付けて納得させられるからです。しかし、大正から昭和前期の沸騰した時代の文学史を正統に俯瞰することも忘れてはいません。窪川鶴次郎や中野重治はもちろんのこと、芥川龍之介、堀辰雄、川端康成、小林多喜二などとの文壇的エピソードにも事欠かない、とにかくおすすめのおもしろさです。

 同誌の特集以外にもおもしろい論考がありました。いずれも共通しているのは、文章に詩心があふれていること、つまり学者であるまえに詩人である人による作物であることでしょう。安宅夏夫さんの「室生犀星―その『星の時間』」がおすすめです。「犀星の真の父母」をめぐる、その真実を探る手の内をさらけ出して見せています。杜撰な文学史家によって「決定版」とされて、後に世に残ってゆくことに異を唱えます。その傍証として?外の舞姫エリスを引き合いに出すのも理にかなっていると思います。六草いちか「?外の恋 舞姫エリスの真実」は、確かに評伝研究の陥りやすい定説信仰への警鐘を鳴らしておもしろいものでしたから。安宅さんの『犀星の真の父母』の稿の完成をお待ちしております。

「文学街」誌

(月刊・昭和32年創刊)のホームページ         

   http://bungakugai.web.fc2.com/


 「作品評/書評」のタブのなかの
〈「全国同人雑誌評」305号に、全文
が掲出されています。)






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